産業技術総合研究所(AIST)
小型ゲノム編集ツールの出発点は酵素の性能ではなく構造だった
大型の編集酵素を細胞へ運びにくく、海外特許も壁になるなか、AISTなどのチームは、酵素の配列ではなく立体構造から候補を探した。約600アミノ酸の小型酵素はヒト培養細胞で約60%の編集効率を示し、植物でも使えることが実証された。送達と安全性の確認が進めば、国内での育種や治療開発の選択肢が広がる可能性がある。
ゲノム編集は、DNAの狙った場所を切り、細胞自身の修復の仕組みで遺伝子を壊したり配列を変えたりする技術である。切る場所はガイドRNAで指定する。だが、広く使われるCRISPR-Cas9のような大型のDNA切断タンパク質は細胞へ運びにくい。植物では低い生育温度で十分に働かない課題もあった。日本で商業利用するには、海外由来の基盤特許についてライセンス交渉と権利処理も必要だった。
大きさだけでなく権利も壁だった
産業技術総合研究所(AIST)、TOPPANホールディングス、インプランタイノベーションズのチームは、植物感染性細菌Agrobacterium salinitolerans由来のDNA切断タンパク質AsaTnpB-Lを開発した。約600アミノ酸で、SpCas9の1368アミノ酸の半分以下である。DNA切断タンパク質1分子とガイドRNA1分子で働く。
要点は、既知の配列ではなく構造から候補を探したことにある。チームは、植物感染性細菌の機能未知遺伝子を予測立体構造に変換し、既知のDNA切断タンパク質に似た形のものを選別した。特許が集中する既知配列の競争から外れ、国内で使える編集基盤をつくる出発点でもある。
形を見て性能を直す
AsaTnpB-Lは、5’-TTCAT-3’という隣接配列(TAM配列)を認識し、ガイドRNAに従ってDNAを切断する。チームは立体構造を手がかりに、タンパク質とガイドRNAが接する場所のアミノ酸を変更した。その結果、ヒト培養細胞で約60%の編集効率を得た。さらに認識するTAM配列を5’-TBAT-3’へ変更した。BはT、C、Gを表す。
インプランタイノベーションズは、植物でも使えることを実証した。技術は日本で特許出願済みで、一部は特許第7821459号として登録されている。発表主体によれば、改良型は国内の既存他者特許に抵触しないよう独自に設計・開発したものだ。


届けられる場所が増える条件
送達性と安全性が確立し、大量に使えるようになれば、病気に強い作物や地域の条件に合う品種を開発する選択肢が増える可能性がある。細胞を体外で編集して治療に使う場合も、装置の大きさが治療設計を縛る度合いが下がるかもしれない。国内で使える特許や標準的な試薬、設計手法が整えば、大学や中小企業も育種やバイオものづくりに参加しやすくなる。
ただし、標的以外のDNAを切るオフターゲット作用、標的細胞や植物種ごとの送達、長期的な安全性は確認が必要である。TAMやPAMの制約も残る。高い効率を保ちながら、これらを確かめられるかが実用化の条件となる。