三菱電機
量子コンピューターを増やすのは制御部品だ
量子コンピューターの実用化を阻むのは、量子ビットの数だけではない。三菱電機は、原子を動かすレーザーと、極低温で信号を増幅する小型部品の開発を始める。多数の量子ビットを壊さず制御できれば、物流などで使える大規模機に近づくが、システム全体で従来機を上回ることが次の条件になる。
量子コンピューターは、量子ビットを増やせばすぐ役に立つ機械ではない。量子ビットはノイズで状態が壊れやすく、間違いを見つけて直すには、多数の量子ビットを同時に測り、細かく動かす必要がある。そのための制御装置はまだ整っていない。医療や物流、材料開発の現場は、量子計算が従来のコンピューターを上回る仕事に使える日を待っている。
増やすだけでは計算機にならない
量子ビットとは、量子の状態を使って計算する部品である。ただし、1個の量子ビットだけで実用的な計算をするわけではない。誤り訂正と呼ばれる仕組みでは、1個の論理量子ビットを守るために、多数の物理量子ビットと測定・制御の仕組みが要る。三菱電機は、100万量子ビット級への大規模化が重要な課題だとしている。
方式によって、制御の難しさも違う。中性原子型とイオントラップ型では、多数の原子を1個ずつ扱うレーザーの出力や安定性、配置、命令の遅れが問題になる。超伝導型では、量子ビットを極低温に置く。室温から冷凍機へ伸びる配線や発熱、読み出し信号の増幅が、数を増やす壁になる。
大規模化を支える二つの部品
三菱電機は2026年9月17日、NEDOの事業で二つの研究開発に採択されたと発表した。量子コンピューターそのものを一つ完成させるのではなく、複数の方式を大きくするための制御部品を開発する。
中性原子型とイオントラップ型向けには、加工機用レーザーの技術とFPGAによる低遅延制御技術を使い、多数の量子ビットを動かす高出力・高安定レーザーシステムを作る。FPGAは、命令をすばやく処理する電子部品である。
超伝導型向けには、マイクロ波IC技術を使い、極低温で動く小型の増幅器を開発する。増幅器は、量子ビットから来る弱い読み出し信号を扱える大きさにする部品だ。産業技術総合研究所などと連携して技術を確かめる。
配車室で使える日は来るか
この部品が、多数の量子ビットを壊さずに制御でき、しかも作りやすいと示せれば、規模拡大で制御装置が占める制約は小さくなる。たとえば横浜の物流センターの配車室で、担当者が多数の配送条件を含む計画を翌朝まで待たずに比べ、遅れそうな便を組み替える。大規模な量子計算機が実用上の優位性を示し、利用料金と運用の複雑さが下がった場合の姿である。
ただし、部品だけで産業利用が始まるわけではない。誤り訂正を含むシステム全体で、従来のコンピューターより処理能力と計算精度が優れることを実証する必要がある。量子ビットの数を競う前に、それを壊さず動かす制御部品を量産できるかが問われている。